オードリーのこの時の功績が評価され 入閣へつながっていく
⑪誰でも参加自由のハッカソンで社会問題を解決昨年、台湾では環境保護のためにプラスティック製ストローが禁止された。これにはオードリーの作ったプラットフォームに、女子高生がタピオカミルクティーのストローが道ばたに捨てられている問題を寄せたところから始まっている。台湾政府はこうした台湾の様々な社会問題に焦点を当て、解決する方法を競うイベント「總統盃黒客松(ハッカソン)」Presidential Hackathonを開催している。ハッカソンとはハックとマラソンを組み合わせたIT業界の造語で、あるテーマを一定の時間内に作業するイベントにちなむ。優れたプレゼンテーションには総統杯が授与され、海外からの参加も可能だ。オードリーは日本語版の他、様々な原語でプロモーション用ビデオを制作している。
オードリーと友達になりたいなら直接会わなくても、「詩を書いたり翻訳が好きという共通な話題があれば簡単」なのだそう。そうは言ってもオードリーの翻訳は趣味の域を超えて、2007年に『她是我哥哥(彼女は私の兄)』を出版している。アメリカの小説家Julie Anne Petersによる『Luna』の翻訳で、トランスジェンダーの物語が話題を呼んだ。
2020年もNoMapsの季節がやってきた。カンファレンスの口火を切ったキーノートセッションでは、台湾のデジタル担当大臣 オードリー・タン氏をゲストに、「市民生活とテクノロジーの調和」についてさくらインターネットの代表取締役社長である田中 邦裕氏とともにディスカッションを繰り広げた。
オードリー氏は農薬散布など人手を集めるのが困難なシーンでは、ドローンの活用などに興味が集まっており、その分野において5G技術への期待が高まっていると答えた。
独学生活に入ったオードリーはコンピューターソフトの研究、ニーチェやプラトン、シェイクスピアを原語で読むなど忙しい日々が続く。1週間で作成した検索ソフト Search Quick Hand が1ヶ月に10,000セット売れ、16歳にしてインターネット会社の設立に参加した。さらに19歳でアメリカ、シリコンバレーに行きソフトウェア会社を創業。アップル社のデジタル顧問にも就いてSiriの開発に携わった。当時アップルは時給1ビットコイン(当時は約1万6000台湾ドルほどだが、現在は約24万台湾ドル=日本円で約87万円)を支払ったという伝説も伝わる。これほど順風満帆そのものだったのに、オードリーは33歳の時に経済や開発競争の世界から引退してしまう。
【NEXT】インタビュー:オードリー・タン(唐鳳)が見つめる社会>IT政策の若き天才リーダーをELLEエディターがファッション撮影! 緊張のインタビューはこちらから。
⑦入閣する前はハッカーだったオードリーが33歳で経済や競争の世界から引退した2014年、台湾では「ひまわり運動」が起きる。中国との「両岸サービス貿易協定」の署名に反対する学生運動で、最終的に立法院を占拠するまでに至った。その時に学生たちの運動を中継、録音、アーカイブ化して海外にも発信していたハッカーチーム「g0v零時政府」(「g0vZero Government」)にオードリーは参加する。ハッカーと言ってもネガティブなイメージでなく、デジタル技術でひまわり運動をバックアップし、政府の情報を透明化させるのが狙いだった。オードリーのこの時の功績が評価され、入閣へつながっていく。
オードリーは後にIT大臣に任命された際、人事データシートの性別欄に「無」(「なし」)と記入している。
上が「Fact-Checker」。下は「US-Taiwan Tech Challenge」──ファクトチェックというのは非常に難しいものですよね。日本ではPCR検査の是非をめぐって医療関係者が二分されるようなことも起きています。これはどちらかがデマであると言えるような類の議論ではありませんが、どちらが正しいのかを判断するのが非常に困難でもあります。そうした際のある種のファクトチェックは誰が担うことになるんでしょう。それはインディペンデントなジャーナリストでしょう。──そうなんですね。彼らが、双方の意見を聞き取って、それぞれの言い分を計るわけですね。おっしゃる通りです。台湾疾病管制局が果たしている中核の業務のひとつは、毎日行なっている記者会見のライブストリーミングと同時中継されるリアルタイムの手話だと思います。これらの会見はセンター長にどんなことを聞いてもいい場となっています。ジャーナリストには情報にフルアクセスする権利が与えられており、聞いてはいけないことは何もありません。記者会見は、質問者がいなくなったときに終了します。ジャーナリストとのこうした協力関係、コラボレーションは非常に重要な鍵です。そして、そこでジャーナリストが得た回答は、いま申し上げたボットにも反映されることとなります。“Humor over Rumor”は、ジャーナリストが政策決定の全体のコンテキストを理解しているからこそ機能するものです。そうでなければ、ボットの判断は、単に気分を反映したものでしかなくなってしまい、デマやフェイクニュースをむしろ助長してしまうことになります。──まさにそれが日本で起きています。閣僚や官僚は回答を拒み、回答することを回避するための制限が勝手につくられているような感じです。それは文化的な相違かもしれませんが、どうでしょう。台湾では、政府よりもシビックセクター、ソーシャルセクターの方により権威があり、むしろ政府よりも支持されているほどです。もっとも現政権の支持率は、今回の事態によって非常に高いものになってはいますが。それでも多くの人びとは慈善団体やジャーナリストといったソーシャルセクターのほうをより信頼しています。台湾には、総統選挙が行われるようになる前からコミュニティビルディングの長い伝統があります。ですから、内閣は、ソーシャルセクターやその一部であるシビックテックコミュニティと敵対するよりも、むしろ積極的に協働することが文化となっているのです。【註:ソーシャル・セクター】social sector とは、パブリックセクター(公共セクター|行政府など)、プライベートセクター(民間セクター|企業)とは異なる中間的なセクター。非政府組織や非営利団体が管理する経済活動の分野。日本では「第三セクター」と呼ばれているものがこれに当たるが、本インタビューのなかでオードリー・タンは、この呼称を否定している。──シビックテックのコミュニティは、国民から広く支持されているのでしょうか。日本では、そもそも「シビックテック」という言葉すら、市民権があるとは到底言えないような状況です。「g0v」は非常によく知られています。それはg0vが、2014年に「ひまわり学生運動」のさなか議会が占拠されている期間、通信インフラを支える技術を持つ人たちを経済的に支援していたからです。2014年3月の前は誰もg0vという言葉を聞いたことがなかったはずです。知名度が上がったのは、その後です。
⑥改名と同時に性別をリセットシリコンバレーでも名声がグングン上昇中の2005年、オードリーは JavaScript テンプレートエンジンである Pugs を発表。制作スピードが上がる、不具合が減るなどサイト作りに画期的な進歩をもたらし、世界中のIT業界にオードリーの名を知らしめた。同じ年に自分のブログで「私はトランスジェンダー」と宣言。24歳にして名前・唐宗漢(タン・ツォンハン)を自分で考えた名・唐鳳(タン・フェン 英:オードリー・タン)にし、パスポートの名前も変更。性別リセット手術も開始した。オードリーは後にIT大臣に任命された際、人事データシートの性別欄に「無」(「なし」)と記入している。
イタリア人のフランチェスコ・シリロによって考案された「ポモドーロ・テクニック」を、オードリーは取り入れて仕事をこなしている。ポモドーロはイタリア語でトマトのことで、シリロが使ったトマト型のキッチンタイマーからその名が取られた。方法は25分間仕事に集中して、5分休憩する。これを1セットにして繰り返す。そして4セット毎に30分ほどの休憩を取るというもの。休憩と作業をはっきり分割することで、メリハリをつけ作業できるそう。 またオードリーはどんなに多忙であっても睡眠時間8時間をキープしている。「寝る時に課題があっても、目覚めると答えが出ている」こともあるそう。休むこと寝ることは健康にいい他に、人類を救うための壮大なアイディアを生む泉でもあるようだ。
──オードリーさんは「g0v」の活動にはどれくらい携わっているのでしょうか。「g0v」は、2012年の後半にスタートしました。わたしが手がけた最初のプロジェクトは、2013年初頭に始めた「MoE Dictionary」です(台湾の複雑な言語事情を解消するために、台湾の北京語、客家語、閩南語に対応する英語・フランス語・ドイツ語の辞書を作成したプロジェクト)。それから7年以上経ちますね。教育部重編國語辭典修訂本dict.revised.moe.edu.tw──現在、マスクマップ以外に取り組んでいるプロジェクトはありますか?そうですね。マスクのオンライン注文システムは、新しいシステムなので、ここ数週間それに集中していましたが、とてもうまくいっています。これと並行して進めてきたのはデマ対策の取り組みで、これは日本からも注目を集めています。“Humor over Rumor”(噂よりもユーモアを)というプロジェクトです。今年の2月にイスラエル、オーストラリア、台湾をはじめとする各国のチームがフェイクニュースにいかに対抗するかをテーマにした「US-Taiwan Tech Challenge」というイベントに招待されたのですが、そこで優勝した「ドクトリンメッセージツール」(Doctrine Message Tool)は、台湾のセキュリティソフトメーカー「トレンドマイクロ」の社員が開発したものでした。【註|トレンドマイクロの出自】トレンドマイクロは、創業はアメリカで、現在本社は日本にあるが、台湾出身のスティーブ・チャンが創業し、台湾に本社があったこともある。──へえ。このツールは、日本でも使われているLINE上で利用できるボットです。まず、ロボット犬をあなたのLINEのグループに招待します。LINEグループに10人ほどの友だちがいた場合、パソコンのウイルス対策ツールのように画像やテキストをスキャンしてくれます。ロボット犬は、ファクトトラッカーによって情報をデータベースや台湾疾病管制局のものと比較します。それが信憑性のない情報だった場合は、ロボット犬が1秒か2秒以内にすぐにユーモラスな反応をするのです。そうすると、人びとは陰謀論や噂に憤慨する代わりに、可愛いらしい犬の微笑ましい写真でなごむことになります。これは、非常に有効な手段です。また、ファクトチェックのためにより多くの政府機関に参加してもらうことにも力を入れています。
④IQが高すぎて名門高校に合格しても最終学歴は“中学中退”輝かしい頭脳を持つオードリーだが、なんと学歴は中学で終わっている。それも知能指数が高すぎるせいか、学校の教師や同級生になじめず両親の判断により中学2年で学校に行くのをやめた。それまでいじめに遭うなど問題が発生するたびに転校を繰り返し、幼稚園は3校、小学校は6校変えている。中学を自主退学する前に科学コンテストに入賞し、名門高校への推薦入学が決まっていたが断念した。当時のオードリーのIQは高すぎて計れず、おそらく180を超えていたと言われる。今でもインタビューなどでこのことが話題になるが、「大人にIQなんて無意味。180は私の身長のことです」と返している。
次世代育成に意欲を見せる田中氏。オードリー氏の口から語られた台湾の若者の活躍ぶりに、いい刺激を受けたのかもしれない。
台湾政府はこうした台湾の様々な社会問題に焦点を当て、解決する方法を競うイベント「總統盃黒客松(ハッカソン)」Presidential Hackathonを開催している。ハッカソンとはハックとマラソンを組み合わせたIT業界の造語で、あるテーマを一定の時間内に作業するイベントにちなむ。優れたプレゼンテーションには総統杯が授与され、海外からの参加も可能だ。オードリーは日本語版の他、様々な原語でプロモーション用ビデオを制作している。
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